こんにちは。栗原貴子です。
ここ数年、きものがメディアで話題になるときは、きまってトホホなネタである。
銀座の呉服店の3年前のポスターに使われたコピーが今ごろ、炎上したと思ったら。
今度はアメリカ人のセレブが、自身がプロデュースしている下着のブランド名として「KIMONO」を商標申請したという。
ポスターのコピーも商標も「きものを、日本文化を冒とくしている」という文脈で批判されているようだけど。
もとをたどれば厳しい言い方になるけれど「ブランディングの甘さ」であり、国際社会をターゲットとした場合の外国人への日本の民族衣装のアピールを長年、ズレた方向でやってきたことのツケのように思う。
例えば、外国人観光客も多い観光地で見かける「お着付込みのレンタルきもの」。
きものを着て、古都をそぞろ歩くことができると人気のレンタルきもの。
着ている方を拝見している限りで申しますが、素材も恐らくポリエステル100%の、そんなポリきものの中でも粗悪な品質、と言わざるを得ない(ポリエステルきものにも、いろいろあるのです)。
レンタルする側の立場に立てば、「観光地をそぞろ歩きながら、ソフトクリームやらクレープやら、お団子などを食べ歩きする」人に正絹のきものや帯など、おいそれとは貸せないのも分かる。そのあたりのリスクを回避したうえで正絹のきものを貸す、となるとレンタル料が高額にならざるを得ない。
メインの客層は若い人たちなので、高額にしたらビジネスとして成り立たない。
結果、ああいうスタイルになったのだろうな、と思う。
利用している人たちも「古都をきもの姿で散策する」という、ちょっとしたコスプレ感覚なのだろうと思う。私が今、二十歳前後のお嬢さんだったら「きものレンタルして散策しよう」と考えるし、利用すると思う。
時代は変われど、乙女心は不変だから。
そして、今、そぞろ歩いている若人たちは、一生懸命ためたバイト代やお小遣いで、レンタルきものでの古都散策を体験しているのだろうな、と想像する。
なのでもはや祖母のような心境で「もうちょっとよいモノを着せてあげたい」とは思うけれど。需要と供給、ビジネスとして考えた時に、あのスタイルに着地することは致し方ないのだろう。
ただ、粗悪なきものを身にまとった日本人を見た、外国人観光客はどう感じるのだろうか?
「きものって、ああいうものなんだ」
と思うだろう。なぜなら、日本人が日本有数の観光地で着ているのだから。「あれが平均的」と思ってしまっても不思議ではない。
「外国人がみたらどう思うか?」という視点が欠落していたことを物語るのが「ハーフの子を産みたい方に」という炎上コピーだ。
きもの姿の女性に外国人男性がメロメロになるに違いない、という「きもの女子でイチコロよね?」と外国人男性をある意味、ばかにしているんじゃないか、とも受け取れる発想なくしてあのコピーは思いつかないからだ。
なんと貧困な発想なのか、と情けなくなる。
確かに、きものを着ていると、外国人観光客からよく声をかけられる。そのほとんどが「一緒に写真を撮ってください」というもので、子供が産まれるような内容ではない。
グループ客でもたいていが、一人ずつのツーショットを撮影を希望するので、時間がかかる。集合写真1枚だろうと思って気軽に「OK」と言うと、5~6回のツーショット撮影になる。
最初のグループと写真撮影をしている間に「私たちも撮りたい!」と別の外国人観光客グループが並び始めたこともあった。ちょっとした「行列のできる店」である。
あいにく私は英検3級。会話にもやたらと時間がかかり「待ち合わせに遅刻する」という失敗を何度かしでかして、私は外国人観光客の多いところには、きものを着て行くのをやめたのだった。
もしかしたら、TDLにおけるミッキーマウスのような、観光地のマスコットのような存在に思われていたのかも知れない。
マスコットにしては、ずいぶんオバサンであるが「オバサンという設定のマスコット」という超拡大解釈もありうる。
話がそれた。
外国人観光客向けの土産物店で「KIMONO」とタグをつけたガウンを売っているけれど、あれはきものでもなんでもない。それっぽい和風の柄だったりするけれど。今まで、そういうものを外国人に向けて販売してきたのだから、下着のブランドに「KIMONO」という商標を申請されても、文句は言えない、と私は思う。
ああいうガウンは海外ドラマフリークの私の観測によると、就寝前や起床後に羽織るもので、そういう品はたいてい「ランジェリーショップ」で売られている。つまり、商標の出願以前から「下着の仲間」とカテゴライズされていたわけです。
少子化、高齢化、非正規雇用、年金問題。
日本では様々な問題を先送りしてきたツケが今、いっきに噴出している。
「KIMONO」も「ハーフの子を産みたい方に」も同じような構造に思える。
そんな時代に生きているのだから。
今の私にできることとして、着付けのレッスンをしながら。
国内はもちろん、外国人観光客の目に留まったときに、そこに日本の伝統や文化を感じてもらえるように。
きものに光を当て、風を通していきたいと、願っております。
ⓒ織田桂子
インドで体験させてもらったサリー。クルーズ船内だけでの体験だったこともあり、これは絹のもの。「インドの民族衣装を正しく体験してほしいから」と頭へのかぶせ方から、ドレープの出し方、ポージングに至るまでインド人クルーとガイドさん(全員男性)がしっかりチェック。インドでは旦那さんが奥さんのサリーの着付けを手伝うこともよくあるそうですよ。「民族衣装を正しく体験してほしい」という言葉に胸を打たれました。そういう風に文化を発信することで、受け取る側の外国人の気持ちも変わってきますよね。
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